今回の記事ではイノベーションのジレンマとはどういうものなのか、
コダックの事例を挙げながらわかりやすく解説していきます。
イノベーションのジレンマとは?
イノベーションのジレンマは元々、
英語の原著では『Innovator’s dilemma(イノベーターズジレンマ)』だったのですが、
和訳の本を出したときに『Innovation’s dilemma (イノベーションズジレンマ)』というタイトルにしてしまったので
・イノベーターのジレンマ
・イノベーションのジレンマ
のどちらでも間違いではありません。
ではここからが本題です。
研究者はハーバードビジネススクールのクリステンセンさんです。
イノベーションのジレンマというのは
『なぜある世代におけるリーダー企業が次世代のリーダー企業になるのに失敗するか?』
という話のことです。
もう少し詳しく説明しましょう。
業界をリードしてきた会社があったとしましょう。
業界をリードしているということは儲かっている会社です。
お金を使っていっぱい商品を買ってくれる可能性のある既存のお客さんの要望に
応えるために積極的に技術、製品、設備などに投資したのに
新しくできた会社にトップの座を奪われてしまうような現象のことを
イノベーションのジレンマといいます。
そのジャンルでトップの地位にいるリーダー企業が
次の世代で没落するってことがあるんですね。
ここではコダックの事例を挙げて説明してみますね。
イノベーションのジレンマ|コダックの事例
コダックはもともとアメリカの会社で超優良企業でした。
コダックはもともと写真フィルムなどのトップシェアの会社でした。
世界的にはコダックか富士フィルムか?というくらいです。
アメリカ人だったら誰でも働きたいというくらいの優良企業でした。
ですが、コダックはその後、破産して潰れるところまでいっています。
どうしてそうなったのでしょう?
理由は基本的にはデジカメが増えたからという話です。
デジカメってコダックは出遅れたという印象を持っている方が多いと思いますが
そんなことはありません。
そもそも世界で初めてデジカメを発明したのはコダックですからね。
だから必ずしもコダックがデジカメで出遅れていたわけではありません。
昔、フィルムだったころ、光り輝くリーダー企業だったコダックが
デジカメの世代になると一気に没落してしまったのです。
こういうことってよくあることです。
ではどうしてコダックは没落してしまったのでしょう?
昔の考え方だとある時代におけるリーダー企業はお客さんの声に耳を傾けなかったから
没落したといわれることがあります。
つまり、おごり高ぶってお客さんからの要望とかニーズをとらえきれなかったから
没落して新興企業に地位を明け渡すことになったということです。
でも、イノベーションのジレンマのクリステンセンさんは
「そうじゃない。リーダー企業はお客さんの声はきちんと聴いていた。
でも、お客さんの声を聴いたがゆえに競争に敗れたんだ」といいました。
つまりお客さんの声を聴かないから負けたのではなくて
聴くと逆に負けるということです。
分断的技術革新と持続的技術革新
分断的技術革新とはすでに存在する会社とお客さんなどの間でできた
価値のある関係(これを価値ネットワークという)を分断するような技術革新のことです。
分断的技術革新だと短期的にはすでにある技術に負けますが
長い目で見ると市場を開拓できるような新技術革新につながることがあります。
これに対して持続的技術革新とはすでにある価値ネットワークに関係する会社やお客さんが
欲しがるものに応えるためにやる技術革新のことです。
で、イノベーションのジレンマにおいては分断的技術革新が発生した時に
新しく興した企業は分断的技術にせっせと投資して
新しい市場などを開拓していきます。
でも、コダックのようなリーダー企業は分断的技術には否定的なすでに
自分たちの会社のファンのようなお客さんが欲しがるものを作ろうとします。
その結果、分断的技術にお金や労力を使おうとせず、
既存のお客さんがほしがるような持続的な技術革新ばかりにお金や労力を使ってしまい、
新しく興した企業との競争に負けてしまいます。
これがイノベーションのジレンマといいます。
ちょっと難しい話をしてしまいましたので
もう少しわかりやすく説明しますね。
イノベーションのジレンマとは?例を使ってわかりやすく解説
横軸を時間、縦軸にある製品の性能をとります。
たとえばコンパクトデジカメってありますね。
今から15年くらい前、スマホが主流になる前って
みんなデジカメでぱちぱち撮影していたものです。
コンパクトデジカメは2009年くらいが売上のピークでした。
2021年現在はまったく売れていません。
どうして売れていないか?というと
現在はスマホのカメラで事足りるからです。
ではどうしてこんな世の中(コンパクトデジカメが売れない時代)になったのでしょう。
で、こちらのグラフをご覧ください。
意味不明ですよね。
これをコンパクトデジカメの話に置き換えていきますね。
昔、コンパクトデジカメの2大世界的メーカーはソニーとキャノンでした。
上の線はコンパクトデジカメです。
コンパクトデジカメを使っているメインのお客さんは
ファミリー層でした。
ファミリーは家族旅行に行くでしょう。
そのときに思い出の写真を残したいということで
コンパクトデジカメを持っていって写真を撮るわけですね。
縦軸は『性能』になっていますね。
写真にはキレイな画像と汚い画像とありますね。
当然、家族旅行に行くファミリー層というのは家族の思い出の写真を
きれいな画質で残したいわけです。
当然、コンパクトデジカメをきれいな画質で残せる基準を満たしていて
最低ラインよりも上にあります。
当然、どんどんお客さんの要求は高まりますが、
コンパクトデジカメの性能はそのお客さんの要求にこたえようとどんどんきれいになっていきます。
ですが、ある時期、分断的技術が登場します。
これがスマホなどのカメラです。
携帯電話に最初にカメラをつけた会社は京セラです。
2001年です。
ただ、京セラが最初につけたカメラはインカメラでした。
いまみんなが風景などを撮影する普通のカメラを最初に作ったのは
シャープでした。
とにかく携帯にカメラがついたのは2001年あたりですが、
それっていうのはコンパクトデジカメを作っていた会社は
知らないか?というと、そんなことはありません。
カメラ業界のトップ企業ですからね。
ただそのときに主要顧客であるファミリー層からアンケートをとるなどして
携帯電話のカメラについて質問するでしょう。
でも2001年とか
2005年などの携帯電話のカメラの画質は悪かったです。
だからファミリー層が求める最低水準を満たしていません。
だからファミリー層にアンケートとっても
携帯電話のカメラはいらないとなります。
だからコンパクトデジカメを作っているメーカーは
コンパクトデジカメの性能を上げることに注力するわけです。
ですが、新しい技術を開発しているメーカーは新しい顧客さんを生み出します。
たとえば女子高生とかです。
女子高生たちは新しい使い方をし始めます。
たとえば、家族の思い出を残すためでなく、
気軽に身近なものを撮影してメールやLINEに送ってやりとりします。
そんなにきれいな画質を求めていません。
だんだん時間がたつにつれてファミリー層も女子高生も
要求する最低水準は上がっていきます。
コンパクトデジカメの性能も、携帯電話のカメラの性能も上がります。
で、一番大事なポイントは点Pとなります。
この点Pは携帯電話のカメラの性能がファミリー層が要求する水準を満たす瞬間です。
点Pより前は携帯電話のカメラは画質が汚くて家族の思い出写真には向いていませんでした。
でも、携帯電話のカメラの性能はどんどん上がっていってどんどんきれいになっていき、
点Pでファミリー層も満足できるのに十分なレベルになっていきました。
なので点Pより右ではファミリー層がみんな携帯電話やスマホのカメラにシフトしてしまったのです。
だからコンパクトデジカメを作っていた会社はお客さんの声を聞いていました。
でも、新しく興した企業はコンパクトデジカメでは勝てないから
携帯電話のカメラの技術を高めていき、
点Pで逆転してしまうわけです。
これがイノベーションのジレンマです。