1次試験

物価版フィリップス曲線についてわかりやすく解説

物価版フィリップス曲線




参考文献・URL
マンキュー経済学ミクロ編・マクロ編

分厚いマンキュー経済学を読み解くのがめんどくさい人は、こちらをおすすめします。
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前回の記事ではフィリップス曲線を利用して自然失業率について解説しました。
自然失業率とは?わかりやすく解説

今回の記事ではフィリップス曲線からさらに発展して
物価版フィリップス曲線についてわかりやすく解説していきたいと思います。

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物価版フィリップス曲線とは?

自然失業率とは


もともとのフィリップス曲線というのは貨幣賃金上昇率(Δw/w)と
失業率との負の相関の関係を表しています。
自然失業率とは?わかりやすく解説 物価版フィリップス曲線

これに対し物価版フィリップス曲線というのは貨幣賃金上昇率ではなく物価上昇率と
失業率との間の負の相関関係を表しています

もともとのフィリップス曲線の貨幣賃金上昇率を物価上昇率に
置き換えたものが物価版フィリップス曲線だということです
この物価版フィリップス曲線を使って古典派の考えるマクロ経済学をもっと
詳しく解説していきたいと思います。

ではどうすれば貨幣賃金上昇率を物価上昇率に換えることができるのか
変換方法について考えていきましょう。

物価版フィリップス曲線を作成するために貨幣賃金上昇率を物価上昇率に変換する方法

自然失業率とは

もともとのフィリップス曲線の縦軸はΔw/w(貨幣賃金上昇率)でした。
この貨幣賃金上昇率がイコール何によってできているのか?を考えていきましょう。
経済学的に貨幣賃金が上昇するのかということを考えてみましょう。

もしかしたらあなたはアルバイトをしていたり
正社員として働いているかもしれません。

働いていると時給が上がることもあるでしょう。
正社員だって働いている時間は同じなのに月給が増えたなら
時給が上がっているわけです。

とにかく時給が上がるということが貨幣賃金上昇ということです。
ではどんなときに時給が上がるのでしょう?

どんなときに貨幣賃金が上昇するの?

どんなときに貨幣賃金が上昇するのか?というと
$\frac{Δw}{w} $=$\frac{ΔP}{P} $
の時が考えられます。

Pは物価です。
なので$\frac{ΔP}{P} $は物価水準の上昇率を意味しています。

アルバイトの時給が高額なところってどんな場所でしょう?
都会の方が田舎より時給が高額になりやすいですね。

たとえば新宿や渋谷の方が鹿児島市の時給よりも同じ職業なら
時給が高いはずです。

どうして都会の時給の方が田舎より高くなるのでしょうか?
物価が高いからです。

物価が高いところほど賃金が高くなります。
つまり、物価上昇率(ΔP/P)が高いほど、貨幣賃金の上昇率(Δw/w)も高くなるということいえますね

それからもう1ついえることがあります。

$\frac{Δw}{w} $=$\frac{ΔP}{P} $+生産性上昇率

生産性上昇率です。

物価版フィリップス曲線に影響する生産性上昇率とは?

たとえば長期のバイトをしていると、時給が上がるのが一般的です。
正社員だって何年か働いていると月収が上がりますね(時給が上がっているのと同じ)。

ではどうして長く勤務すると時給が上がるのでしょう?
「長く働いてくれてありがとう!」っていう感謝の意味合いでしょうか?
そんなことはありません。

社長からしてみたら会社に利益をいっぱいもたらしてくれる労働者が大好きで
会社に損害を与えたり、利益をあげてくれない労働者は大嫌いなはずです。

長く働いている人ほど会社に利益をもたらすような働き方ができるはずだから
時給が上がっていくわけです。
長く働いているということはその仕事に精通しているから
去年よりももっと会社の利益アップに貢献できるような仕事をしてくれるはずだから
時給が上がるわけですよ。

一言でいうと、長く働くと生産性がアップするから時給が上がるわけです。

だから生産性の上昇による賃金の上昇といえます。

$\frac{Δw}{w} $=$\frac{ΔP}{P} $+生産性上昇率

それから加えて、労働分配率上昇率も物価版フィリップス曲線に影響してきます。

$\frac{Δw}{w} $=$\frac{ΔP}{P} $+生産性上昇率+労働分配率上昇率

物価版フィリップス曲線に影響する労働分配率上昇率とは?

労働分配率というのは簡単にいうと
労働者の取り分
のことです。

あなたはコンビニの店員とします。
100円のアイスクリームを1個お客さんに販売したとしましょう。
お客さんから100円を受け取った時、
この100円を丸々店員(あなた)が給料としてもらえるわけはありませんね。

この100円のうちの何%があなたの給料になっています。
この100円のうちの何%(何割)が労働者のお給料になるか?
が労働分配率です。

当然、労働分配率が上昇すればするほど
100円のうちの取り分が増えれば増えるほど⊿w/w(賃金上昇率)は上昇することになりますね。

だから

$\frac{Δw}{w} $=$\frac{ΔP}{P} $+生産性上昇率+労働分配率上昇率

が成り立ちます。

以上から貨幣賃金が上昇する理由は3つ考えることができます。

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貨幣賃金が上昇する原因3選まとめ

以上より、

貨幣賃金が上昇する原因は

・物価上昇率(⊿P/P)
・生産性上昇率
・労働分配率の上昇率

の3つです。

式は

$\frac{Δw}{w} $=$\frac{ΔP}{P} $+生産性上昇率+労働分配率上昇率

となります。

ではどうすれば貨幣賃金上昇率と物価上昇率をイコールにすることができるでしょう?
イコールにするためには生産性上昇率と労働分配率上昇率の存在が邪魔になりますね。

では労働分配率上昇率については原則的に不変だと考えます。
労働者の取り分自体は変わらないと考えるわけです。

不変ということは上昇率が0となりますね。

だから

$\frac{Δw}{w} $=$\frac{ΔP}{P} $+生産性上昇率+0

ということです。

あと生産性上昇率はどうすればよいでしょう?
貨幣賃金の上昇率から生産性の上昇率を差し引いてしまえば
貨幣賃金上昇率と物価上昇率がイコールで結ばれることになりますね。

$\frac{Δw}{w} $ー生産性上昇率=$\frac{ΔP}{P} $

ということです。

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物価版フィリップス曲線のグラフ

物価版フィリップス曲線

以上のような操作をした結果、上記のように
縦軸が⊿P/P(物価上昇率)で横軸が失業率uの物価版フィリップス曲線が完成します。
ちなみにですが、⊿P/P(物価上昇率)はπ(パイ)と表されることがありますが、
同じ意味です。

マクロ経済学ではπという記号は物価上昇率の省略記号として使われます。
この物価上昇率は別名、インフレ率と呼ばれることもあります。

まとめますと

物価上昇率は

・インフレ率
・⊿P/P
・π(パイ)

などと表されたりします。

物価版フィリップス曲線

たとえば上記グラフのようにオリジナルのフィリップス曲線があったとしましょう。
物価版フィリップス曲線はどうやって導かれるのでしょう?

労働分配率の上昇率を0とするから
オリジナルのフィリップス曲線からマイナス生産性上昇率(青色の線のところ)分だけ
下にシフトさせたものが物価版のフィリップス曲線となります。

あと、物価版フィリップス曲線が横軸とクロスしているところを自然失業率とみなします。

数式で説明すると
π(物価上昇率)=ーa(u-uN)
(uは失業率、uNは自然失業率、aは正の定数)
と表現することができます。

ところでこの物価版フィリップス曲線そのものの存在はケインズ経済学にとって
非常に重要なものです。

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物価版フィリップス曲線はなぜケインズ経済学の立場にとって有利な理論になるのか?

その理由は物価版フィリップス曲線というのは雇用と物価のトレードオフが関係しています。
トレードオフというのは片方を得ようとすると片方をあきらめないといけないことをいいます。

たとえば勉強時間を増やそうと思ったらアルバイトの時間を減らさないといけないし
給料を増やそうと思ったら勉強時間を減らさないといけません。
こういう関係をトレードオフの関係といいます。

こういうトレードオフの関係が雇用と物価の間にも成立するというのが
物価版フィリップス曲線が教えてくれます。

失業率uを低下させたいとしましょう。
そのためには国民所得Yを増やすことがマストです。
景気をよくしないと(国民所得Yを増やさないと)失業率を下げることができませんからね。

物価版フィリップス曲線

上記グラフから失業率が下がれば、物価は上昇しますね。
グラフで見たら左上の方に進みますからね。
よってπ(物価上昇率)が高くなります。

物価上昇率πが上昇するということは
P(物価水準)が上昇するということです。
物価が上がるということは以前の物価より増えているわけだから⊿Pも上がりますからね。
⊿Pというのは物価の変化を意味する数字ですから。

この物価版フィリップス曲線によると
失業率が低下するためにはインフレ率(物価上昇率)が上昇するというのが必要だということです

実はこのことはケインズ経済学にもとづいて考えた場合と基本的に同じことです。
ケインズ型のAD-AS曲線を頭に思い浮かべてみてください。
AD-AS曲線がシフトする要因について解説

ケインズはのAD曲線

ケインズ型のADーAS曲線というのは縦軸に物価、横軸に国民所得をとったときに
右下がりにAD(総需要)、右上がりのAS(総供給)ができる曲線のことです。

国民所得を増やすためには政策的に政府支出Gを増やすとか
貨幣供給を増やす必要があります。
こういったことをするとAD-AS曲線はAD(総需要)が右方向にシフトします。
AD-AS曲線がシフトする要因について解説

すると交点は右上に移動します。
つまり、物価の上昇と国民所得の増大が起こっていることを意味しています。
ということで物価版フィリップス曲線はケインズ経済学の政策効果をそのまま言っていることになります

しかもフィリップス曲線は100年分の実証研究に基づくものです。
なので、ケインズ経済学の正しさというものが100年分の現実によって裏付けられたことになります。
の限りではケインズ経済学は現実の経済と一致しているといえます

ということはケインズ経済学を信じる人たちはフィリップス曲線をみて
自分たちの正しさが証明されたことになるからうれしい話ですね。

ですが、この喜びが打ち砕かれるような事件が発生します。
それがスタグフレーションという出来事です。

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物価版フィリップス曲線が否定されるきっかけとなったスタグフレーションとは?

このスタグフレーションという出来事は重大な出来事でした。
1970年代、とくにアメリカで非常に大きな影響を及ぼしたものです。

スタグフレーションとは失業率の上昇とインフレ率の上昇が同時に起こることです。
さらに詳しくはこちらの記事をご覧ください。
スタグフレーションとは何か簡単に解説

失業率が上昇しながら同時にインフレ率も上昇してしまうのがスタグフレーションです。
こういうできごとが1970年代のアメリカで発生しました。

物価版フィリップス曲線

スタグフレーションが実際に起きたということは物価版フィリップス曲線はあり得ないということを意味します。
フィリップス曲線に基づくと
失業率が上昇するならインフレ率が下がらないといけないはずです。
でも、失業率が上昇しているにもかかわらずインフレ率も上昇しています。
右下がりどころか右上がりのフィリップス曲線があるのではないか?となってきます。

すると安定的な右下がりのフィリップス曲線を前提とするケインズ経済学というのものは
スタグフレーションが発生した時点で現実と一致しなくなってしまったのです。
もはやケインズ経済学は現実に沿う形の経済学ではないと考えられるようになってしまいました。

当然ケインズ経済学に対する批判や疑問が湧き上がってくることになります。
特にスタグフレーションが猛威を振るったアメリカではなおさらです。

ということでアメリカを中心に反ケインズの動きが活発になっていきました。
その中心となったのがフリードマンというシカゴ大学の先生です。
フリードマンが考えのベースとしているのはケインズが批判の対象とした古典派経済学です。
ケインズの間違いは古典派を否定したことにあるから
スタグフレーションに対して有効な手段がとれないとフリードマンは考えました。

かつてケインズが世界恐慌の時期にそれまでの古典派経済学をこき下ろして批判したのと同じ形で
フリードマンにやりかえされました。

フリードマンはノーベル賞を受賞しています。

以上で物価版フィリップス曲線についての解説を終わります。