今回の記事ではマーケティング近視眼とは何か?
例を挙げながらわかりやすく解説していきたいと思います。
マーケティング近視眼を理解するために、
まずは企業ドメインについて説明します。
企業ドメインとは?
企業ドメインとは企業が行う事業領域のことです。
ピンとこなかった方はこちらの記事をご覧ください。
⇒企業ドメインとはどんな意味?
ところで企業ドメインについてはレビットというマーケティングの研究で有名な研究者が
・物理的定義
・機能的定義
に分けて説明しました。
どういう話か?というと
物理的定義とは現在の製品そのものであったり、
技術にもとづいてされた物理的側面からドメインを定義する方法のことです。
わかりやすくいうと、物理的定義とは『ヒト』『モノ』『コト』の中でも
『モノ』を中心にドメインを発想する方法のことです。
例を挙げてみますと、
お菓子を製造販売する会社が自社の事業領域を「お菓子の会社」と
定義することを挙げることができます。
こんな感じで物理的定義は『モノ』を中心にドメインを発想するわけですが、
製品そのものであったり技術・サービスが具体的になります。
ですが、『ヒト』でいったらアイデンティティーみたいに自分を縛ることになるため
事業活動ができる範囲が狭くなりがちになるというデメリットもあります。
![開業医](https://www.management-consultant.info/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
アイデンティティというのは『私は医師だ』とか
『私は2人の子供の父親だ』みたいな感じで『私は~だ』と自分のことを決め、
思い込んでいる状態というとわかりやすいでしょう。
『私は医師だ(しかも開業医だ)』と自分で思い込むと、
病院経営がうまくいかなくなっても、
医師をやめて別のビジネス(ネットビジネスとか輸入業とか)に
参入することがプライドなどが邪魔してどうしてもできなくなります。
「私は東京大学の学生だ」というアイデンティティがあって、
明日から「私は専門学校生になる」といって大学をやめて
専門学校に転入、編入できませんよね。
自分で『自分は~だ』と思い込んでいると
いきなり別のことってできないし考えられませんよね。
アイデンティティが邪魔しているわけです。
次に機能的定義ですが、『ヒト』『モノ』『コト』の中でも
『コト』に着目して発想する方法のことです。
他にもお客さんのニーズに着目して発想するのも機能的定義に該当します。
別の言い方をすると、物理的定義の『モノ』でなく
その製品や技術がどんな機能をお客さんに提供できるかという観点からなされたドメインの定義のことです。
![飛行機](https://www.management-consultant.info/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
たとえば航空会社だったら物理的定義だと『飛行機の会社』かもしれませんが
機能的定義だと『輸送手段の提供』という感じになります。
ここまでいいですか?
物理的定義と機能的定義で有名なレビットさんが発表した論文の中で
『マーケティング近視眼』という概念を残しています。
マーケティング近視眼とは?具体例とともに解説
マーケティング近視眼とはどういうことなのでしょう?
企業というのは往々にして物理的定義に重きを置きすぎてしまい
事業範囲を狭くとりすぎてしまうような失敗をすることがあります。
このことをマーケティング近視眼といいます。
レビットさんが論文の中で例として挙げているのは
20世紀に入ってアメリカの鉄道業が衰退した理由です。
![鉄道業](https://www.management-consultant.info/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
令和3年の私たちが想像するアメリカって鉄道業が発達した国というイメージは
あまりないかもしれません。
現在の私たちが想像するアメリカは自動車か飛行機が移動手段だと思うはずです。
ですがそもそも19世紀半ばから19世紀末にかけての
アメリカの花形産業の1つは鉄道・鉄鋼・石油でした。
ところがアメリカは20世紀に入って鉄道業が急速に衰退していきます。
どうしてでしょう?
レビットさんによると鉄道をやっていた会社が自社の事業を輸送手段の提供という機能的定義じゃなくて
鉄道という物理的定義で定義づけていました。
そのため、20世紀初頭に飛行機が出てきたり自動車が登場したりして
航空産業や自動車産業が出てきたときに
鉄道会社が飛行機や自動車への多角化が行えなかったのが
鉄道産業衰退の原因だろうとレビットさんは指摘しています。
つまり、鉄道業をやっていた会社はレールとか鉄道自体という『モノ』じゃなくて
『輸送手段の提供』という『コト』に着目していれば
もしかしたら20世紀初頭に伸びて来ていた航空とかトラック(自動車)へ多角化して
成功できたかもしれないけど、これがやれなかったということです。
これは難しいですね。
これがマーケティング近視眼です。
逆にマーケティング近視眼にとらわれずにうまくいった会社の例を挙げてみましょう。
![アップル](https://www.management-consultant.info/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
Apple Inc.(アップル)という会社がありますね。
Apple Inc.(アップル)という会社は2007年1月まで
Apple Computer, Inc.(アップルコンピュータ)という名前の会社でした。
つまり「コンピュータ」という名前を外して単にアップルという名前の会社に変えたわけです。
もともとアップルという会社はもともとは
マッキントッシュなどのパソコンを製造して販売するという会社でした。
ところが、アップルコンピュータという物理的定義じゃなくて
機能的定義(インターネットなどのアクセス手段の提供とか)にシフトしていって
iphoneやipadへとパソコン自体にこだわらない会社に変わっていったのです。
マイクロソフトだって以前はソフト販売の会社でしたが、
最近ではSurfaceとかハードウェアの製造販売も始めています。
マイクロソフトの場合は会社名に『ソフト』がついているから
やりづらいでしょう。
でも、昔のアメリカの鉄道会社みたいに物理的定義にとらわれると
長期的に見ると衰退産業になる可能性があります。
アップルのように機能的定義にフォーカスすることで
時代の波に乗りやすくなるということがいえそうですね。
以上でマーケティング近視眼についての解説を終わります。