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1次試験

自然失業率仮説とは?わかりやすく解説

自然失業率仮説とは




参考文献・URL
マンキュー経済学ミクロ編・マクロ編

分厚いマンキュー経済学を読み解くのがめんどくさい人は、こちらをおすすめします。
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この記事では自然失業率仮説とは何か
解説していきます。

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自然失業率仮説とは何か?

自然失業説仮説はフリードマンが提唱した仮説です。
フリードマンさんはケインズ経済学的な政策の無効性を論証しました。
そのときに利用された仮説こそが自然失業率仮説です。

自然失業率仮説の本質は何か?というと
長期的には失業率を自然失業率以下に下げられない』です。
特に『長期的には』がポイントになります。

この自然失業率仮説を論証するにあたっていくつかの前提があります。

自然失業率仮説前提(1)労働供給は実質賃金に依存する

実質賃金はW/Pです、
Wは賃金でPは物価です。
賃金を物価で割ったものが実質賃金ということです。

自然失業率仮説の1つ目の前提は労働供給(労働者の行動のこと)は実質賃金に依存して決まるとします。
こういった考え方をとるのが古典派の特徴です。
古典派の第2公準によると、労働者は自らの実質賃金と限界効用を兼ね合わせて
労働供給を決めるとしました。

古典派の第2公準についてはこちらの記事で解説しています。
総供給曲線(AS曲線)を導出してみます

ケインズは古典派の第2公準を批判して労働者は
自分の実質賃金に関心を持っているはずがないと考えました。

そしてケインズは
下方硬直性という話を研究していきました。

ケインズに対しフリードマンは古典派の原点に立ち返り、
労働者はあくまで実質賃金に関心を払って行動しているはずだと考えました。
こんな感じでフリードマンは古典派の流れに属していることは明らかですね。

自然失業率仮説前提(2)労働者は短期的

自然失業率仮説の本質は『長期的には』失業率を自然失業率以下に下げられない
と説明しましたね。

たとえば政府が失業率を低くしたいと考えたとしましょう。
その場合、まずやることとして政府支出Gを増やすことをするでしょう。
政府支出=公共事業のことだと思ってください。
政府がお金を払って道路工事なんかをやってもらうってことです。

政府支出を増やし公共事業を行うことで仕事が作られるから
失業率は低下することになります。

ただ、一方で政府支出を増やすことは総需要を増やすことにつながるので
物価水準Pを上昇させることにつながります。

こういった物価水準の上昇はW/P(実質賃金)を低下させることにつながります。
実質賃金が低下すれば、労働需要(ND)は増えるでしょう。

労働需要が増えて労働供給(NS)を上回るようになれば
今度は賃金Wが上昇し始めるでしょう。

これは古典派の労働市場の考え方と同じです。
古典派の労働市場についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
自然失業率とは?わかりやすく解説

フリードマンはここで前提を置きます。
労働者は短期的に貨幣賃金W(自らが毎月受け取る給料)が上昇したことは当然知っているはず。
給与明細を見れば給料が上がったか下がったかはわかるはずですからね。

でも、物価水準Pが上昇したことは知らないはずだとフリードマンは考えたのです。
さすがに1年くらいと長期で見れば「去年より牛乳の値段が上がったね(物価上昇)」みたいにわかるでしょう。
でも、先月の牛乳の値段などを毎月比較して物価水準を把握する人はほとんどいないはずです。

つまり短期的に労働者は自分の貨幣賃金が上がったかどうかわかったとしても
物価水準が上がったかどうかということに関して把握することはできないとという
前提をフリードマンさんはとったわけです。

確かにこれは現実に照らしてみても受け入れることができる前提といえるでしょう。

以上のようにフリードマンさんはここまで解説した2つの前提をとりました。

ここまでまとめますと

フリードマンがとった2つの前提とは

前提(1)労働供給は実質賃金に依存する
前提(2)労働者は短期的

のことです。

そしてフリードマンさんはもう1つ画期的・革新的なものを導入しました。
それは期待インフレ率です。

自然失業率仮説を理解する前提となる期待インフレ率とは?

期待インフレ率の導入こそがフリードマンが行った経済学に対するもっとも大きな貢献といっても過言ではありません。

期待インフレ率は経済学では$π^{e} $と記載することが多いです。
期待インフレ率の期待を英語で『expectation』と書くのでπの右上にeをつけます。
ちなみにexpectationは期待以外にも予想とか予測という意味でもあります。

つまり、期待インフレ率とはみんなが将来のインフレ率をどう予測しているのか?
ということを意味しています。

この予測というものが経済学においてものすごく重要なのです。
たとえば経済予測という用語がありますね。
「将来の経済はどうなるか?」「来年の物価はこうなります」みたいな予想のことです。

こういった経済予測というのは天気予報と同じように将来がどうなるか?
ということをみんなに知らせるという点ではよく似ています。
だから、天気予報も経済予測も当たらないという方が多い印象です。

ですが、経済予測と天気予報を比べると大きく異なる点が1つだけあります。
それは何でしょう?

経済予測と天気予報の大きな違いとは?

経済の予測をみる私たち自身が経済を動かしている点です。

経済予測

たとえば今後物価が下がると予想していたとしましょう。
物価が下がる=商品の値段が安くなる(3000万円の家が2000万円になるとか)なら
今、商品を買う必要がありませんね。
ただ生活必需品は物価が高くても買うしかありませんけどね。
たとえば牛乳とか卵の場合、いくら高くても買うしかありません。

でも家やバイクなど生活必需品でないものだったら
物価が高い間は買わないでしょう。
物価が下がって安くなってから家やバイクを買えばよいわけです。
なので高いものは買いません。買い控えます。

みんなが買い控えれば家やバイクが売れず、余ってきます。
すると不動産会社やバイクのお店は値段を安くしてでも売ろうとします。
不動産会社やバイク屋さんだって生活がかかっています。
商品を売ってお金を手に入れないとお店だってやっていけません。

なので、家やバイクが売れないと、
家やバイクの値段は下がるはずです。

つまり実際に物価が下がってしまうわけです。
物価が下がると予測したその予測に基づいて行動した結果、
実際に物価を下げてしまうのです。

逆にこれから物価がこれから上がるとしましょう。
たとえばマンションの価格が2000万円から3000万円に上がることが
予想されているとしましょう。

その場合、3000万円に上がってからマンションを買うと損するから
2000万円のうちにマンションを買うはずです。
みんなが3000万円になる前にマンションを買おうとしたら
販売されているマンションの数が不足します。
不足すると必ずマンションの値段は上がってしまいます。
つまり、実際に物価が上がってしまうわけですね。

みんなが物価が上がると思いその予想に基づいて行動した結果、
実際に物価が上がってしまう、こんな感じでみんなの行動が経済を動かしてしまうわけですよ。
天気予報だとそんなことはありませんよね。

天気予報が雨っていうから、みんな傘を持って外出した結果
実際に雨が降るわけではありませんよね。

経済予測に関しては実際に予測が現実になる事があり得るわけです。
つまり、期待インフレ率の期待(予測、予想)というものが経済を動かす大きな要素であるということをフリードマンは明示的に示しました。
これがフリードマンの大きな貢献なのです。

この期待インフレ率を使って前回解説したフィリップス曲線を修正します。
物価版フィリップス曲線についてわかりやすく解説

期待インフレ率がフィリップス曲線に与える影響

期待インフレ率が導入される前は

π(物価上昇率)=ーa(u-uN)

でした。

期待インフレ率が導入されると

$π $=$π^{e} $ーa(U-$U_N $)

となります。

単純に$π^{e} $(期待インフレ率)が式の中に入っただけの話です。
ただ、この修正がものすごく大きな影響をフィリップス曲線に与えることになります。
どんな影響でしょう?

$π^{e} $(期待インフレ率)が上昇するとしましょう。
期待インフレ率が上昇するということは、みんながインフレ率の予想を高く持つということです。
そうなると、フィリップス曲線が上方にシフトします。
このことを考えるためにグラフを書いていきたいと思います。

期待インフレ率を加味したフィリップス曲線を作成してみる

縦軸はπ(インフレ率)、横軸はu(失業率)とします。
このグラフにフィリップス曲線を書きます。

フィリップス曲線

フィリップス曲線は右下がりの線で示されます。
これは復習になるので、よくわからない方は先にこちらの記事をご覧ください。
物価版フィリップス曲線についてわかりやすく解説

自然失業率

そしてフィリップス曲線と横軸がクロスしている点がありますが
ここはUN(自然失業率)となります。

短期フィリップス曲線

フリードマンは右下がりのフィリップス曲線に『短期フィリップス曲線』と名付けました。
短期とは私たちが予想(期待)を変えない一定の期間のことです。

期待インフレ率

たとえば期待インフレ率を式で表すと$π^{e} $=0、
つまりインフレ率が0%になるに違いないと予想している場合のフィリップス曲線であると
フリードマンは言っています。

なぜなら横軸(失業率)とクロスしているところというのは
労働市場が均衡した状態を示しています。
労働市場が均衡している状態というのは一種の定常状態です。
私たちが考えた状態が実現した状態が均衡状態です。

今、インフレ率が0、つまり今後もインフレ率が0と続くと私たちが考えているから
均衡状態として成立しているわけです。

ですが、もしインフレ率が$π^{A} $の水準になるに違いないと考えているなら
それに基づいて行動していく結果、実際にインフレ率が上昇してしまいます。
つまり、均衡に対応するインフレ水準が私たちの予想値に一致することになるはずです。

短期フィリップス曲線

結果、もう1本別の短期フィリップス曲線が描かれることになります。
今度は$π^{e} $=$π^{A} $
となってしまいます。

だから
期待インフレ率を加えた数式は

$π $=$π^{e} $ーa(U-$U_N $)

ですから、
失業率Uと自然失業率$U_N $が一致した均衡状態(U-$U_N $=0ですからa(U-$U_N $)=0となります)においては
インフレ率は期待インフレ率と一致する水準($π $=$π^{e} $になりますね)に決まるわけです。

期待インフレ率

たとえばもう1つ$π^{B} $をとってみると、
もう1本別の短期フィリップス曲線を描くことができます。
何本でも短期フィリップス曲線を描くことができます。

期待インフレ率が高まれば高まるほど、
短期フィリップス曲線は上方にシフトしていくことになります。

$π^{A} $<$π^{B} $
で、π^{B} $の方が短期フィリップス曲線は上方に存在していますから
分かっていただけると思います。

つまり、フィリップス曲線は右下がりかもしれません。
でも決して安定的なものではなく、私たちの予想や期待によって
自在にシフトし得るものだということを
フリードマンは期待インフレ率を導入することによって証明したのです

これがフリードマンさんにとっての大きな貢献になります。

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自然失業率仮説を理解するために短期・長期の変化を考えてみよう

短期の状況について考えてみる

まず状況を短期と長期に分けておきましょう。
まず短期の状況から。

期待インフレ率

期待インフレ率0の短期フィリップス曲線が横軸とクロスしているところをAとします。
そして経済は当初Aの状態にあったとしましょう。

今、たとえば政府が失業率を下げようと考えて政府支出を増やす政策をとったとしましょう。
政府支出Gを増やすと物価が上昇し、
労働需要が増えて、貨幣賃金は上昇します。

このことは当記事の『自然失業率仮説前提(2)労働者は短期的』のところで解説しています。
このとき労働者は実質賃金に基づいてW/P(実質賃金)が上がったか下がったかを判断し
労働供給を増やしたり減らしたりします。

今、労働者はP(物価)が上昇したか知りません。
なぜなら短期だからです。
ですが、W(貨幣賃金)が上昇したことは知っています。
だとするとW/P(実質賃金)においてP(物価)が上がったことは知らず、
W(貨幣賃金)が上がったことだけを認識することになります。

その場合、W/P(実質賃金)は上昇したと労働者は認識するはずです。
P(物価)が上がったことには気づかず、
Wが上昇したことだけを判断しているから、
W/Pの分子Wだけが大きくなったと判断する結果、
w/P(実質賃金)が大きくなったと労働者は考えてしまいます。

とすれば、賃金が上がったのなら
NS(労働供給、労働者が働くこと)は増えるでしょう。
賃金が増えたなら労働者はもっと働こうとするはずだからです。

こんな風に労働供給が増えます。
もちろん労働需要(雇うこと)も増えてくることで
失業率uは低下していくことになります。

期待インフレ率

失業率uが低下するということはフィリップス曲線に沿って
失業率が小さくなります。
もちろん、インフレ率は短期フィリップス曲線の場合、上昇していくことになります。
(短期フィリップス曲線が左上に向かっていくイメージ)。

短期

その結果、経済はA点からB点に移動していくことになります。
これが短期的な経済の動きです。
失業率uは自然失業率UNよりも小さな水準になっているので
この限りでは政策は成功したと判断できます。

ただし、この政策が成功したのは労働者があくまで自分の実質賃金が上がったと考えたからです。
でも実際に上がったかどうかは怪しいところです。
なぜなら政策によって物価水準は実際には上がっているわけですから。

こんな風に物価水準が上昇したことに気づかず、
貨幣賃金(W)の上昇をW/P(実質賃金)の上昇と勘違いして
労働者がやる気を起こしてしまっただけの話です。
こういう状況を貨幣錯覚(かへいさっかく)といいます。
錯覚とは勘違いのことです。

つまり労働者が貨幣錯覚という勘違いに陥っているから
こういう風な現象が起きているにすぎません。
続いて長期を見ていきましょう。

長期フィリップス曲線

短期

今、Bの状態にあります。
労働者は長いスパンで考えると物価水準Pの状況に気づくはずです。
「あれ、賃金が上がっている割に生活水準がよくならない」
「いろんなものの値段が上がっている」
と長期的に見ると労働者が気づき始めるわけです。

分母のPが大きくなっていることに気づけば
自らの実質賃金W/Pが下がったと認識を改めるようになります。
こんな風に自らの考えや予想を改めることを経済学では期待修正(きたいしゅうせい)といいます。

「なんだ、実質賃金(W/P)が変わってないじゃないか!
だったらやる気を出して働いても意味ないじゃん!」
と今度は労働供給NSは減少していきます。

実質賃金が変わってないのなら元の水準に戻っていくわけです。
労働供給が減れば働かない人や働けない人が増えてくるので
失業率は上昇することになります。

短期

失業率が上がるだけなら点Bから点Aに戻ればよいだけでしょう。
でもそうは問屋が卸しません。

なぜなら労働者は物価が上昇していることにすでに気づいているからです。

期待インフレ率


つまり、インフレ率はもはや0ではなくて、
上記グラフにおける$π^{A} $になっていることにすでに労働者は気づいているってことです

労働者は上記グラフの黄色のグラフでなく、水色のグラフ($π^{A} $)にうつってしまっているのです。 長期

だからうつる点は点BではなくC点になります。
C点に向かって経済は変動していくことになります。
これが長期の経済の動きになります。

つまり失業率は元の水準に戻ってしまうわけですね。
よって政策は無効といえます。

もし再びそれでも政府が失業率を引き下げようとしたところで
同じ動きを示すだけです。
C点から左上に行って、期待修正されればまた元の失業率に戻るだけです。

長期で見た失業率とインフレ率の関係


長期的に見れば失業率とインフレ率の関係はA点とC点を結ぶ直線上に存在することになります。 長期フィリップス曲線

こんな感じで長期におけるインフレ率と失業率との関係は
ACの結ぶ直線上になるので、これをフリードマンは長期フィリップス曲線と名付けました。
長期的に考えると経済状況は常に長期フィリップス曲線上にあるとフリードマンは考えたわけですね。

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自然失業率仮説とは?結論

ここまで解説してきたように
短期的に失業率を自然失業率以下にすることは可能。
でも、長期的には失業率を自然失業率以下にすることはできません。
これを自然失業率仮説といいます。

もしかしたら「短期的でもあっても失業率を下げられるからいいんじゃないの?」
って考えた方もいるかもしれません。
でも、短期的に失業率を下げることができても長期的には失業率を下げれません。
できないどころかインフレという副作用を残すだけです。
結果的には悪いものしか残らないのならやらない方がマシです。

つまりケインズ経済学的な政策をすべきではないという結論が
ここまでの解説からいえるわけです。

これを使ってフリードマンはケインズ経済学的な政策の無効性を示しました。

長期フィリップス曲線


もし期待修正が激しくて点Cがもっと右方向に移動したら
長期フィリップス曲線は右上がりの曲線になることもあります。

それはまさにアメリカを悩ませたスタグフレーションを説明するようなフィリップス曲線になります。
なのでこのフィリップス曲線を使ってスタグフレーションの説明を可能にしました。
以上で自然失業率仮説についての解説を終わります。