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前回の記事ではAD曲線(総需要曲線)の導出をやってみました。
今回はAS曲線(総供給曲線)の導出をやっていきましょう。
目次
労働需要曲線と労働供給曲線|AS曲線(総供給曲線)の導出
まずこちらのグラフをご覧ください。
横軸は労働量Lです。
縦軸はW/Pで実質賃金率です。
実質賃金率とはその賃金をもらったら
何個商品を買うことができるか?ということです。
たとえば時給900円で、
現在チョコレート1枚150円だとします。
その場合、900÷150=6枚
労働者がもらう時給でチョコレートを6枚
買うことができるってことです。
もしその労働者のスキルが高くなって
時給が1800円と2倍になった。
けど、物価も2倍上がりチョコレート1枚300円になったら、、、
1800÷300=6枚
やはり、チョコレート6枚しか買えません。
こんな感じで時給が上がっても
物価が同じだけ上がったら、
私たちの生活水準は変わりません。
こういう見方をするのが実質賃金率です。
それから上記グラフで労働供給曲線は
いろんな記事で書いている供給曲線と同じで
労働需要曲線も需要曲線と同じです。
でも右上がりか右下がりかは
違っていたりします。
⇒需要曲線が右下がりな理由とは?
⇒供給曲線が右上がりな理由とは?
労働供給曲線は労働を供給(提供)するということなので
労働者側の曲線だと言えます。
労働者側を経済学では家計といいます。
労働供給曲線は右上がりになります。
どうして右上がりになるのでしょう?
実質賃金率がもし上がったとします。
いっぱい物が買えるようになるわけですから
労働者はモチベーションが上がるはずです。
なのでいっぱい働きます。
「どんどん働いていっぱいお給料をもらおう」
となるわけです。
結果、労働量Lは増える(右側になる)ので
労働供給曲線は右上がりの曲線になります。
これに対して労働需要曲線は労働を需要する
労働者を欲するという意味なので、
会社側の曲線だといえます。
労働需要曲線は右下がりになります。
会社は実質賃金率が下がった方がうれしいです。
実質賃金率が下がれば、もっとたくさんの人を雇ったり
もっと働かせたりできるようになります。
つまり実質賃金率が下がると労働量が増えるので
右下がりのグラフになるわけですね。
労働需要曲線|AS曲線(総供給曲線)の導出
まず古典派の第1公準から解説します。
古典派の第1公準は
労働の限界生産力MPL=W/P
です。
W/Pは実質賃金率ですね。
労働の限界生産力の『限界』とは1単位増えたら、
どれだけ増えるか?を表します。
なので労働の限界生産力(MPL)というのは
労働が1単位増えたらどれだけ生産量が増えるか?
という意味です。
で、この労働の限界生産力と言うのは逓減します。
逓減とはちょっとずつ減っていくという意味です。
たとえば機械を使ってチョコレートを作っているとします。
1人雇うとチョコレートが50枚できたとします。
もう1人雇ったら、50+50=100枚できるでしょうか?
おそらくできません。
労働者が増えても
機械の数は決まっているので
思ったほど、チョコレートができないからです。
「俺がこの機械を使う」
「いや、私がやる!」
となってしまって、労働者数に比例して
チョコレートが増えるわけではありません。
だからたとえば労働者が1人から2人に1人増えたら
チョコレートを10枚増量できたけど、
2人から3人に1人増えても8枚しか増量できない。
それから3人から4人に1人増えたとしても
6枚しか増えないという感じで
限界生産力というのは逓減していくのが一般的です。
で、先ほど古典派の第1公準では
労働の限界生産力とW/Pはイコールだといいました。
ではもしMPLとW/Pがイコールでなかったら
どうなるのでしょう?
労働の限界生産力>W/Pだったら
どうなるのでしょう?
たとえば労働者を1人増やしたらチョコレートの生産量が
10枚増えるとします。
そしてW/P(実質賃金率)はチョコレート8枚分の時給だったとします。
この状態、会社からしてみると嬉しい存在ですね。
労働者1人が10枚チョコレート作ったけど
お給料はチョコレート8枚分でよいわけですから。
この状態だと、会社の社長はもっと労働者を雇おうとするでしょう。
雇えば雇うほど会社は儲かる状態ですから。
よって労働の限界生産力(MPL)>W/Pだと
労働量を増やす方向になります。
とはいえ、先ほど解説しましたように労働の限界生産力は
逓減していきます。
今度はMPL<W/Pとなったとしましょう。
チョコレート8枚分の時給を支払っている(MPL)けど
チョコレート6枚しか作ってくれない(W/P)とします。
こうなったら社長は「役立たずの社員なんていらない。減らそう」
となって、労働量を減らすでしょう。
今度は労働量を減らしていくと
MPLとW/Pのバランスがとれてきて
結局、MPL=W/Pとなるはずです。
これが古典派の第1公準です。
この古典派の第1公準をもとにして
労働需要曲線が右下がりになります。
どうして古典派の第1公準によって
労働需要曲線が右下がりになるのでしょう?
たとえばMPL=W/Pだったけど、
W/Pが大きくなり、
MPL<W/Pとなったとします。
すると先ほど解説しましたように労働量は減少していきます。
お給料に見合った仕事を労働者がしてくれないからです。
よって、下のグラフのように①W/Pの増加により
②労働量(L)が減少します。
だから労働需要曲線は右下がりになります。
労働供給曲線|AS曲線(総供給曲線)の導出
労働供給曲線導出のために必要なのが
古典派の第2公準です。
古典派の第2公準
労働の限界不効用=W/P(実質賃金率)
です。
労働の限界不効用とは、ある財の生産に労働を
1単位追加投入したとき、不効用(不満)がどれだけ増加するか?
ということです。
そして労働の限界不効用は逓増していきます。
たとえば月に20日労働だったけど
「社長がもっと儲けたいからつき25日働いてくれ」
と言ってきたとします。
つまり労働日数が増えるわけです。
おそらく労働者的には不満を感じると思います。
なので労働の限界不効用は逓増していきます。
もし仮に労働の限界不効用<W/P
のとき、どうなるのでしょう?
この場合、労働への不満よりもW/P(実質賃金率)の方が大きいわけですね。
だから労働者はもっと頑張ろうと思います。
なので労働量は増加します。
逆に労働の限界不効用>W/P
は実質賃金率よりも不満の方が大きいわけですから
労働量は減ります。
こうやって最終的には
労働の限界不効用=W/Pに落ち着きます。
結果、労働供給曲線は
となります。
ではどうして動労供給曲線は右上がりになるのでしょう?
たとえば労働の限界不効用<W/Pの場合、
労働量は増加するんでしたね。
つまり①W/Pが増加すると②労働量Lも増加します。
だから労働供給曲線は右上がりになります。
ケインズ派の考え方|AS曲線(総供給曲線)の導出
ここまで、古典派の考え方を説明しました。
ではケインズ派はどう考えるのでしょう?
ケインズ派は古典派の第1公準は認めています。
でも古典派の第2公準は認めていません。
このことから最終的に導出される総供給曲線(AS曲線)の形が
古典派とケインズ派で変わってきます。
古典派におけるAS曲線(総供給曲線)の導出
古典派の総供給曲線は垂直になります。
古典派におけるAS曲線が意味するところは
物価Pの変動に対して国民所得Yは影響を受けないということです。
どうしてでしょう?
古典派の場合、非自発的失業はないと考えました。
非自発的失業とは働きたいのに雇用の受け皿がないために
働けない状態のことです。
古典派は名目賃金がうまく調節されるため
非自発的失業が発生しないと考えたんです。
なので、古典派は必ず完全雇用が実現されると考えました。
自然失業以外は必ず働けるってことです。
このときの国民所得をYF(完全雇用国民所得)といいます。
⇒完全雇用国民所得とは?
もちろん、自然に起こる失業は古典派も認めていました。
逆にケインズ派は非自発的失業があると考えました。
ここがケインズ派と古典派の違いです。
話を元に戻して、
古典派は完全雇用になっているため
物価が変動しても完全雇用国民所得YFから動きません。
だからAS曲線は垂直になります。
先ほど古典派は名目賃金がうまく調節されるから
物価の影響を受けないといいました。
ケインズ派におけるAS曲線(総供給曲線)の導出
仮に物価Pが上昇したとしましょう。
するとW/P全体は減少しますから、、、
上記グラフのように超過需要の状態になります。
よくわからない方はこちらをご覧ください。
⇒超過需要とは超過供給とは何か?グラフを使って解説
超過需要の状態になると、会社は賃金を増やそうとします。
なぜなら労働需要曲線は労働者を欲するという意味なので、
会社側の曲線でした。
グラフを見ると、労働需要曲線の方が労働供給曲線より
右側に来ているので、より労働者が欲しい状態だといえます。
労働者が足らない状態ってことです。
なので賃金Wを増やそうとするわけです。
すると、Wが増えるということはW/Pも大きくなるので
結局元の状態に戻るわけです。
こんな感じで古典派は名目賃金Wがうまく調節されるため
物価Pの影響を受けないと考えました。
また古典派は完全雇用が実現されると考えるので
AS曲線は垂直となります。
ケインズ派におけるAS曲線(総供給曲線)の導出
古典派は名目賃金Wはうまく調節されると考えましたけど、
ケインズ派の場合、名目賃金Wが下方硬直的になると考えました。
どういうことでしょう?
たとえば①物価Pが減少したとします。
すると②W/Pは上昇しますね。
上記グラフの状態は③超過供給状態になります。
⇒超過需要とは超過供給とは何か?グラフを使って解説
超過供給状態を元に戻そうと賃金wを減らそうとします。
これが古典派なら元のW/Pまで戻ります。
でもケインズ派の考えでは④のように思ったほどwが減りません。
だから④の状態で止まります。
そして⑤のように青線の距離だけ失業が起こります。
これが名目賃金Wが下方硬直的の意味です
で、超過供給の状態ですから、労働者が足りていません。
その分国民所得Yが小さくなります。
その結果、ケインズ派の総供給曲線(AS曲線)は
となります。
ケインズ派の総供給曲線は一定のところまでは古典派と同じ
垂直な線になりますが、物価Pが下がっていくと失業者が発生するために
お給料をもらえない人が発生するため
国民所得Yが減少するようなグラフとなるわけですね。
ちなみにどうしてケインズ派は名目賃金Wが下方硬直的と考えるのでしょう?
たとえば物価が下がったら、先ほどのようにW/Pが上がるため
超過供給になります。
だから理屈の上では名目賃金wを下げようとします。
でもですね、あなたは「物価が下がったから
給料を下げるね」と社長から言われて納得するでしょうか?
おそらく「ふざけんな!労基署に相談に行こうかな」
となるでしょう。
不満を感じて転職するかもしれません。
そうなったら会社としても困るので
思ったほど給料を下げられないわけです。
これが名目賃金Wが下方硬直的の意味するところです。
以上でAS曲線(総供給曲線)の導出を終わります。